全反射HAXPESの応用事例Application of Total Reflection HAXPES

硬X線光電子分光(HAXPES)は、これまで軟X線領域での測定が主流であった光電子分光を硬X線領域で行うことでバルク敏感な測定が可能となり飛躍的な進歩を遂げました。一方で、表面状態の分析を目的としてX線の全反射条件下でのHAXPES測定も行われています。全反射条件ではX線が全反射臨界角で入射するため、物質中へ侵入できる深さが制限されます。この特性をHAXPESに適用すると原子層レベルの界面酸化層や偏析不純物の結合状態の分析が可能となります。

HAXPES:Hard X-ray Photoelectron Spectroscopy (硬X線光電子分光)

全反射HAXPES

通常条件測定では、X線は試料深くまで入り込みますが、光電子の脱出深さが小さいため、HAXPESの検出深さは光電子の脱出深さで決まります。 一方、全反射条件ではX線の侵入長が光電子の脱出深さよりも短くなるためHAXPESの検出深さはX線の侵入長で決まります。

通常のHAXPES測定と全反射HAXPES測定の対比
通常のHAXPES測定と全反射HAXPES測定の対比

事例 La0.6Sr0.4MnO3/SrTiO3

事例では、強相関電子系材料のLa0.6Sr0.4MnO3/SrTiO3基板(LSMO/STO基板)に対し全反射HAXPESを実施し、表面とバルクの電子状態の比較を行いました。

HAXPESスペクトル (Mn 2p3/2, O 1s)

全反射HAXPES測定ではバルク特有のMn 2p3/2のwell-screened ピークが消失し、O1sでは表面コンタミ成分が増大していることがわかります。

※T. Mizutani et al., Physical Review B 103, 205113 (2021).

LSMO膜の膜厚依存性

全反射条件でのHAXPESの実際の検出深さを調べるため、膜厚の異なるLSMO膜を用意し、下地STO基板からのTi 1s ,2p ピークの強度の膜厚依存性を調べました。

膜厚の異なるLSMO/STO基板 試料
Ti 1s, 2pスペクトル強度のLSMO膜厚依存性

Ek: 光電子の運動エネルギー

LSMOの膜厚が厚くなると下地STO基板からのTiのシグナルが指数関数的に減少します。

全反射HAXPESでの光電子の検出限界深さは約8nmであることが分かりました。

光電子の運動エネルギーが異なるTi 1sとTi 2pでほぼ同じ検出限界深さ(8nm)となったことから、全反射HAXPESでの検出限界深さは光電子の運動エネルギーには依存しないことが分かります。

通常条件のHAXPESでは元素ごとに検出深さが変わりますが、全反射HAXPESでは、基本的に元素ごとに検出深さが大きく変わらない点も大きな特徴です。

※試料ご提供元: 東北大学 多元物質科学研究所 (兼) 高エネルギー加速器機構 物質構造科学研究所 組頭先生

通常、放射光を用いた測定では、表面敏感なXPS測定とバルク敏感なHAXPES測定は、別の測定ビームラインで実施する必要があります。 そのため、エネルギー分解能などの実験条件が変わってしまうという欠点がありました。 また、異なる装置で測定するためビームタイムの再申請など時間を要します。 全反射HAXPESでは、上記の問題を解決しています。 加えて、元素ごとに検出深さが大きく変わらない点も全反射HAXPESのメリットです。

※HAXPES測定は、外部放射光施設を利用するため、利用手続きから測定までにある程度の時間をいただきます。

[ 更新日:2024/02/26 ]

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