透過電子顕微鏡における明視野像と暗視野像の活用

始めに電子線と電子レンズの関係について簡単に説明した後、明視野像と暗視野像についてご説明します。その後、明視野像と暗視野像を活用した実例をご紹介します。

原理

電子銃から引き出された電子線は、加速管で加速され薄膜試料に照射されます。電子線は試料を通過するときに、試料と相互作用し軌道や位相を変えたり、試料中の原子と相互作用することによりエネルギーをロスしたりします。
試料の後ろにある磁場もしくは電場を用いた電子レンズで電子線は結像されます。電子線と電子レンズは、あたかも光線と光学レンズの関係のように振舞います。
ここでレンズの性質について簡単にご説明します(図1)。左側の矢印を試料と考え、それがレンズによってどのように拡大されるかを考えます。試料側にあるレンズの焦点を前焦点、レンズの反対側にある焦点を後焦点と呼びます。レンズの中心を通りレンズに垂直な軸を光軸といいます。
試料から放たれた光線がレンズを通過するときに、光軸に平行な光線はレンズを通過後、後焦点面(後焦点を含みレンズに平行な面)を通過し、レンズの中心を通った光は、そのまま軌道を変えることなく直進して像面(ここをスクリーンとする)で結像されます。光軸に対して平行でないものは、レンズを通過後、後焦点は通過しません。ただし、レンズに対してある角度で入射した光は、その角度に依存した点を通過することになります。レンズは試料の位置情報をスクリーンに拡大(または縮小)した位置情報に変換しますが、後焦点面では角度の情報に変換しているといえます。この効果は、試料が結晶性でない場合は、あまりありがたみがありませんが結晶性の試料では有効な使い方ができます。

レンズの作用
図1 レンズの作用

電子線は結晶中の原子の並びのため一部は透過し、一部は反射され、あたかもハーフミラーのように振舞います。電子線は粒子線であるとともに、波の性質も併せもつのでブラッグの条件〔(1)式tZb〕を満たすように回折されます(図2)。
2dsinθ=λ...(1)

結晶中の原子と電子線
図2 結晶中の原子と電子線

ブラッグの条件を満たすように回折された電子線は、ある角度をもってレンズを通過するので、後焦点面ではそれぞれの角度に対応した点で強度をもつ回折パターン(Diffraction pattern)を得ることができます。
先に示したように、電子線と電子レンズは、光と光学レンズの関係と同様に考えることができます(実際には、電子線はレンズ中で回転しながら進むが光軸からの距離だけを考えればよい)。
レンズを2枚用いるとレンズが1枚のときよりも便利な使い方ができます(図3)。特に電子レンズではレンズ電流値を変えることにより焦点距離を変えることができるので、電流値を変えるだけでスクリーンに拡大像や回折像を選択することができます。

レンズを2枚使った場合
図3 レンズを2枚使った場合

後焦点面に『絞り(電子線が一部だけ通過できるように穴を開けた金属製の板)』を挿入し、特定の情報を得ることができます。

透過波のみによる結像(明視野像)

絞りの穴の位置を、透過波だけが通過できるようにして結像したものを明視野像といいます(図4)。電子線が散乱の程度によって像にコントラストを生じさせます。回折を起こしている部分は、透過波からその分、電子線が少ないので暗く見えます。

明視野観察の回折パターンと絞りの関係
図4 明視野観察の回折パターンと絞りの関係

右上の回折図形と絞りの位置関係で灰色の部分が絞りにより覆われていることを表します。

回折波による結像

絞りの穴の位置を透過波以外の電子線を通過させるようにして結像したものを暗視野像(図5)といいます。特定の結晶を観察したり、格子欠陥の解析に用いたりします。

暗視野観察の回折パターンと絞りの関
図5 暗視野観察の回折パターンと絞りの関係

ある特定の回折波だけを通過させるので、その回折を引き起こす部分以外は非常に暗く、回折を引き起こす部分はそれに比べて明るく見えます(図6)。絞りの穴の大きさは有限なため、厳密には散乱電子が通過してくるので真に暗くはなりません。

明視野と暗視野でのコントラストの関係
図6 明視野と暗視野でのコントラストの関係

観察例

ゲートリーク観察

ゲートリークの観察例です(図7)。濃い灰色の部分がSi基板で、その上にゲートのポリシリコンがあります。中央付近のゲートポリシリコンと基板界面下のSi基板側にポリシリコンのコントラストが観察できます(図中赤丸内)。このポリシリコンがゲートと接触しているかは、明視野像では判断が難しい。ポリシリコンのある回折波のみで選択した暗視野像を用いたのが(b)で、Si基板側に観察できるポリシリコンは、ゲートポリシリコンから伸びていることが分かります。

ゲートリーク観察の例
図7 ゲートリーク観察の例

結晶粒解析

暗視野法を使うことで、結晶粒のサイズの解析に使うことも行っています(図8)。対物絞りの位置を適当な配置にすることで、結晶粒を認識しやすいコントラストを得ることができます。図8(c)は多数の結晶粒の粒径を測定した結果をまとめたものです。この例では、粒の平均サイズは81.3nmで、バラツキ(σn-1)は26.2nmあることが分かりました。

結晶粒サイズ測定結果
図8 結晶粒サイズ測定結果

[ 更新日:2024/02/26 ]

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