放射光HAXPESによる埋もれた界面の評価HAXPES Analysis for Buried Interface by Synchrotron Radiation

X線光電子分光(XPS)は、表面の組成・状態分析が可能であり、表面分析では不可欠な手法です。ラボ型XPS(Al Kα:1.5keV)では、3nm程度の極表面の評価に限られますが、外部施設を利用した硬X線光電子分光(HAXPES):8keVにより、多層構造や実デバイスに近いスタック構造の埋もれた界面など、より深い領域の評価が可能となります。

HAXPES:Hard X-ray Photoelectron Spectroscopy (硬X線光電子分光)

概要

励起エネルギーが高いほど光電子の運動エネルギーが増大
⇒検出深さが大きくなり、より深い領域の評価が可能になります。

概要

励起X線の違いによる比較例〔試料:SiO2(9.4nm)/Si基板〕

HAXPESグラフ
HAXPES
(8keV励起)
HAXPESグラフ
HAXPES
(8keV励起)
ラボ型XPSグラフ
ラボ型XPS
(1.5keV励起:Al Kα)
SPring-8でのHAXPES装置
SPring-8でのHAXPES装置
ラボ型XPS装置
ラボ型XPS装置 (Al Kα)

SPring-8 HAXPES装置の写真ご提供元:(財)高輝度光科学研究センター 様

※HAXPES測定は、SPring-8の装置を借用して行うため、利用手続きから測定までにある程度の時間を頂きます。

特徴

HAXPESは、高エネルギーX線を利用したX線光電子分光(XPS)

  • 通常のXPSに比べて検出深さが大きい
  • 深いエネルギー準位からの光電子を測定
  • 同時に発生するオージェ電子などの重なりがなくなるため、状態分析が容易
  • 第三世代の放射光施設(SPring-8)を高輝度X線源として利用可能

HAXPESの検出深さ

高いX線エネルギーにより深い位置からの情報を得ることができる。
ラボ型XPS〔Al KαX線(1.5keV)〕に対し、

  • 8keV放射光X線(HAXPES):4倍程度の深さ

光電子の検出強度

X線エネルギー増加に伴う励起効率低下に対し、

  • HAXPES(SPring-8)は高輝度放射光を利用

元素によっては、励起効率が高くなる内殻軌道を用いることで、検出感度の低下を解決。(たとえば、Si2p⇒Si1s)

装置比較

1) IMFP: Inelastic Mean Free Path (非弾性平均自由行程)

ラボ型XPSとHAXPESの比較

  • ラボ型XPS - Al Kα線(1.5keV)励起でSi2p光電子(Ek~1.4keV)を測定した場合
  • HAXPES - 8keV励起でSi1s光電子(Ek~6.1keV)を測定した場合
実験室XPSとHAXPESの比較:HAXPESだと、埋もれた界面も検出可能で表面層の寄与が低い

事例

多層膜(メタル/絶縁膜)試料の測定(HAXPES)

  • 検出深さが深いため、最表層にキャップ膜(約10nm)が存在しても下層のAl酸化物を十分検出できます。右図下図では3nmのキャップ膜を有するAl2O3膜の測定例を示します。
  • 深いエネルギー準位(たとえば、Al1s)は、ラボ型XPSでは励起が困難であるのに対し、HAXPESでは検出可能です。また、断面積が大きい(感度が良い)ため、薄膜や微量の場合でも短時間で測定できます。
  • 酸化しやすい材料や潮解性をもつ材料について、表面キャップにより大気曝露による変質がない状態で、そのままキャップ越しに測定が可能です。
    (積層試料=実際の試料構造で測定できます)
装置比較
HAXPES(SPring-8)とラボ型XPS

p-GaNおよびp+-GaNのバンドベンディングの評価(HAXPES)

深さ方向でのベンディングプロファイル

深さ方向でのベンディングプロファイル
N1sスペクトルと光電子脱出確率から計算したバンドベンディングプロファイル
N1sスペクトルと光電子脱出確率から計算した
バンドベンディングプロファイル

データご提供元:株式会社東芝 吉木 様
〔放射光 22(1), 20 (2009).〕

p-GaN、p+-GaNのスペクトルにおける、高エネルギー側へのテール(裾)の引き方により、バンドベンディングの大小を解析することができます。
形成された電極とのバンドアライメントを評価すれば、コンタクト抵抗の大小を比較できます。

CoFe試料のCo2pおよびFe2pスペクトル(ラボ型XPSとHAXPESの比較)

オージェピークの重なり回避

Fe2pスペクトル(実験室HAXPESとXPSの比較)
Co2pスペクトル(実験室HAXPESとXPSの比較)

ラボ型XPSでは、光電子ピークとオージェピーク(上図ではCo LMM・Fe LMM)が重なる場合があります。HAXPESを用いることでオージェの位置を変え、各ピークを個別に解析することができます。

用途

  • 厚膜試料のバルクの評価(二次電池ほか)
  • 積層膜などの多層膜界面の評価(ゲートスタック・GMR・MRAM)
  • 後酸化・潮解性を有する膜に対するキャップ越しの評価
  • 太陽電池の透明電極や透明半導体のin-gap state評価(ZnO・IGZOなど)
  • 電極/GaN構造のバンドアライメント・ベンディング評価
  • 2p・2s軌道間の重なりやオージェピークが重なる試料(FeCo・GaNなど)の評価
  • 全反射条件下でのHAXPES分析で高スループットな深さ方向分析

[ 更新日:2024/03/19 ]

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