有機物中の金属不純物分析Trace Metal Analysis in Organic Materials

半導体や液晶などで使用される有機溶媒やレジスト、一般的な潤滑油やオイル、印刷用インク・塗料などの有機物を酸処理せずにそのまま、または有機溶媒で希釈してICP質量分析装置(ICP-MS)で測定することにより、有機物中に含有される微量金属の定性・定量分析ができます。

原理

ICP-MSは、高温のアルゴンプラズマ炎(6,000~10,000K)中に、溶液化した試料を導入し、全元素を同時に励起・イオン化し、質量分析装置で測定する装置です。通常は酸などを添加した水溶液を対象としていますが、試料が有機溶媒の場合、プラズマが不安定になって測定ができないことや、不完全燃焼による導入系への煤の付着による目詰まりやカーボン由来の妨害などにより、測定が困難でした。最新のICP-MSでは、キャリアガス(Ar)に少量の酸素を混合し、プラズマ内で有機物を燃焼させることで、プラズマが安定化するとともに、イオン化効率の低下やカーボン由来の妨害も低減する機構になっています。

特徴

  • 多くの有機溶媒1)に対応
     1) 粘性の高い試料は希釈して導入します
  • 固体は有機溶媒に溶解して測定2)
     2) 固体有機物については溶媒が限定されますので要相談
ICP質量分析装置(ICP-MS)

測定が可能な有機溶媒

※下表以外はご相談ください

有機物名 主な用途
アセトニトリル 有機合成原料・精製溶媒・抽出蒸留溶媒・分析装置用溶離試薬など
アセトン 塗料用・接着剤用の溶媒、洗浄用・脱脂用の溶媒など
イソプロピルアルコール(IPA) 消毒・清掃用品、洗浄用の溶媒、燃料用水抜き剤など
エタノール 洗浄用の溶媒、有機合成原料・消毒剤・燃料など
n-2-メチル-ピロリドン(NMP) 電子部品洗浄・半導体部品洗浄、リチウム二次電池部材の製造用溶剤など
キシレン 農薬用・塗料用の溶媒、染料・香料などの原料、可塑剤の原料、医薬品用溶媒など
ケロシン ジェット燃料・ロケット燃料・暖房燃料など
酢酸エチル 塗料用・印刷インク・接着剤・医薬品原料の溶媒など
ジイソブチルケトン(DIBK) 塗料用・エポキシ樹脂用の溶媒など
ジメチルアセトアミド(DMAC) 合成樹脂用・合成繊維用の溶媒など
N,N-ジメチルホルムアミド(DMF) 石油化学工業用抽出溶媒、アクリル繊維(ポリアクリルニトリル)合成用溶媒など
テトラヒドロフラン(THF) 表面コーティング用・接着剤用の溶媒、印刷インク用溶媒など
トルエン ペンキ・塗料用溶媒、ゴム・印刷用インク、接着剤・化粧品用溶媒など
n-ヘキサン 食用油脂抽出用溶媒、接着剤用・塗料用の溶媒など
ベンゼン 染料用・医薬品用・農薬用の溶媒、化学製品の合成となる原料溶媒など
メチルエチルケトン(MEK) 塗料用・接着剤用の溶媒、印刷インク用溶媒、有機合成の原料となる溶媒など
メタノール 接着剤用・脱脂用の溶媒、燃料用の溶媒など
メチルイソブチルケトン(MIBK) 塗料用・インク用溶媒、医薬品用・農薬用薬、化粧品用の溶媒など
レジスト フォトレジスト・スクリーン印刷レジスト・エッチングレジスト・めっきレジストなど

事例

フォトレジストの60元素一斉分析

フォトレジスト中の金属不純物は、製品の特性に影響を与え、信頼性を低下させる要因となるため、含有量を可能な限り低減する必要があります。
従来より行われている酸分解などの前処理は、工程が複雑で時間も掛かり、コンタミネーションや目的元素の損失などのリスクが高く、定量下限が高くなる傾向がありますが、有機溶媒導入システムにより、試料を有機溶媒に希釈してICP-MSに導入することで、高感度に分析することができます。

試料 Li B Na Mg Al K Ca Sc V Cr
フォトレジスト <2 <3 28 <3 <3 <2 <2 <8 <2 <4
定量下限 2 3 6 3 3 2 2 8 2 4
試料MnFeCoNiCuZnGaAsSeSr
フォトレジスト<1<4<1<1<2<7<1<5<8<0.5
定量下限1411271580.5
試料YZrNbMoRuRhPdAgCdIn
フォトレジスト<2<2<2<2<0.5<0.5<2<2<1<1
定量下限22220.50.52211
試料SnSbTeCsBaLaCePrNdSm
フォトレジスト<1<4<3<1<0.2<3<3<2<2<1
定量下限14310.233221
試料 Eu Gd Tb Dy Ho Er Yb Lu Hf Ta
フォトレジスト <1 <0.5 <0.2 <2 <0.2 <1 <1 <0.5 <2 <1
定量下限 1 0.5 0.2 2 0.2 1 1 0.5 2 1
試料 W Re Ir Au Hg Tl Pb Bi Th U
フォトレジスト <2 <2 <2 <1 <2 <1 <0.2 <2 <5 <2
定量下限 2 2 2 1 2 1 0.2 2 5 2

【結果】

  1. 一斉分析の結果から金属不純物としてNaのみ検出されました。これは、試薬のガラス容器からの溶出と考えられます。
  2. レジスト中の金属不純物は、ppbレベル以下であり、製品の特性には影響を及ぼさないと推定できます。

有機溶媒導入ICP-MSは、有機物中の金属不純物をシングルppb(ng/g)オーダで測定でき、有機試薬中の微量金属不純物の管理に活用できます。

関連情報

YouTubeサイト : 受託分析サービス動画配信(SP-ICP-MSの説明)

[ 更新日:2024/02/27 ]

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