MATPASS NMR法による正極活物質の構造解析Local Structure Analysis of Cathode Active Materials using MATPASS NMR technique

Li核をプローブとした固体NMR解析は、X線回折(XRD)やX線吸収微細構造解析(XAFS)などと並んでリチウムイオン二次電池の電極活物質材料の構造解析手法として注目されています。しかし、正極活物質中には様々な遷移金属元素が含まれていることから、これらの元素が常磁性イオンを形成する場合には、NMR信号の著しい広幅化やそれに伴う多数のSSBの出現により詳細な構造解析が困難となることがありました。最近Hungらによって報告されたMATPASS法1)はSSBフリーの等方NMRスペクトルを測定する手法であり、超高速MASプローブと組み合わせることで、これらの電極材料においても高分解能7Li MASスペクトルの取得が可能になりました。

MATPASS: Magic Angle Turning Phase-Adjusted Sideband Separation

NMR: Nuclear Magnetic Resonance

SSB: Spinning Side Band

MAS: Magic Angle Spinning

【参考文献】1) I. Hung et al., J. Am. Chem. Soc., 134, 1898-1901 (2012)

MATPASS法のパルスシーケンス

下図に示した三つの展開セグメントは試料回転速度に関わらずシフト異方性を完全に平均化します。τrはローター回転周期、Nはt1インクリメントの数を表しています。t1展開全体としてエコー信号のフーリエ変換はSSBの分離をもたらします。フリップ角が90°以下のショートパルスを使用することで、従来のHahn echo法よりもはるかに広い励起帯域を与えることができます。

MATPASS法のパルスシーケンス

Li2MnO37Li MATPASSスペクトル

MATPASS測定では、おのおののSSBがF1軸上の異なるスライスに分離された2次元スペクトルが得られます。F2軸に沿ったShearing処理によりすべてのSSBを等方ピーク位置に配列させた後、各スライスを足し合わせることで1次元MATPASSスペクトルを得ることができます。

Li<sub>2</sub>MnO<sub>3</sub>の<sup>7</sup>Li MATPASSスペクトル

Li<sub>2</sub>MnO<sub>3</sub>の<sup>7</sup>Li MATPASSスペクトル

各種正極材に対するMATPASS法適用の効果

電子-原子核間双極子(常磁性)相互作用の異方性による線幅の広がりがMATPASSスペクトルでは劇的に解消され、等方ピークのみが観測されています。これによりLiの配位環境に応じたピーク同定が可能となります。また、SSB信号に妨害されることなく、異相/不純物に由来する微小信号を容易に識別することができます。

各種正極材に対するMATPASS法適用の効果

スピネルMn系正極材の7Li MATPASS NMR解析

Mnサイトへの置換元素の種類や濃度、容量劣化の度合いに応じてスペクトルパターンが大きく変化しています。7Li NMRシフト値は、Liの周りに配位しているMn4+とMn3+の数、つまりMnの平均価数に依存して規則的に変化しますが、一部のサイクル劣化試料では両者の関係がこの規則性から大きく外れており、Mn3+の不均化反応を伴う異なる劣化モードの存在が示唆されました。

スピネルMn系正極材の<sup>7</sup>Li MATPASS NMR解析

本研究のNMR測定は文部科学省先端研究基盤共用促進事業「NMR 共用プラットフォーム」の北海道大学先端NMRファシリティを利用しました。

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[更新日:2018/07/12]

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